戸部研究室研究紹介
  

・ TBCの長寿命化に関する研究
・ アコースティックエミッション法を用いた溶射成膜診断法の開発
・ 溶射法を用いたプラスチック成形用金型の高機能化
・ 金属−ポリマー2層皮膜の転動疲労挙動
・ チタン合金のスプレーフォーミングに関する研究
・ 溶射皮膜の破壊挙動と残留応力
・ 真空アーク処理の溶射前処理への適用






・TBCの長寿命化に関する研究
 発電用ガスタービンエンジンや航空機用エンジンの断熱皮膜として多用されているTBC(断熱皮膜)は一層の長寿命とより高い信頼性が求められている。TBC皮膜は密着性を向上させるために、通常NiCrAlY合金皮膜(ボンドコート)上に成膜される。本研究では次世代材料として注目されており、き裂の自己修復作用などにより高い耐酸化性をもつとされるMoSi2に注目し、NiCrAlY,MoSi2,PSZ(ZrO2-8%Y2O3)の3層構造とすることにより長寿命化を達成することを目的とした。当初、中間層をMoSi2だけで作成したが、極めて脆いため70%MoSi2+30%NiCrAlY、70%MoSi2+30%Ni-CrにしNiCrAlYと中間層を減圧プラズマ溶射法で、PSZを大気中プラズマ溶射法で成膜した。これらの試験片に対して繰返し加熱冷却試験、X線回折、EPMA、断面観察などを行った。また、実際のタービンブレードに上記皮膜を形成し繰返し加熱冷却試験も行った。中間層のMoSi2にNiCrAlYまたはNi-Crを30%混ぜ合すことによりMoSi2の相変態による熱膨張変化のための皮膜剥離を防ぐことができ、加熱冷却試験において十分な密着力と長寿命を達成することができた。また、加熱中にMoSi2+3O2→MoO2+2SiO2という化学変化によりSiO2がき裂などの欠陥部に生成し、き裂自己修復効果も認められた。
           

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 アコースティックエミッション法を用いた溶射成膜診断法の開発
 溶射皮膜の特性は、溶射条件によって大幅に変化する。基材に衝突した溶射粒子形状がDisk Splatになるのが最良とされているが、この条件を設定するのは容易ではない。最良の溶射皮膜を形成する条件を設定するには、あらゆる条件で溶射、評価を繰り返す必要があり大変なコストが必要となる。そこで本研究では、本来、材料の破壊挙動の評価に広く使用されている測定方法であり、リアルタイムで波形を表示することのできるAE(アコースティックエミッション)法を用いて、一つの溶射粒子が基材に衝突したときのAE波形を測定し、成膜過程を評価することで、粒子形状とAE波形の関連性を明らかにし、溶射条件を設定する時間とコストの短縮を目的にした。
 まず、基礎実験として溶射粒子が基材への衝突時に変形する各種の状態をシュミレートするため、鉄球・粘土・グリス・オイルを基材に衝突させてAE波形を収録した。次に溶射を行うが、溶射材料をモリブデン、基材温度を常温、溶射距離を100mmから300mmまでを20mm毎と設定する。溶射粒子の基材への衝突数を制限するために溶射ガンと基材の間に遮へい板をセットし溶射を行い、AE波形を収録した。その際、基材に衝突した溶射粒子を顕微鏡観察した。そして、基礎実験のAE波形と溶射のAE波形を比較することで、溶射粒子がどのような状態で衝突しているのかを診断した。
 以上の結果、Disk SplatのAE波形は立ち上がり時間が短く、Splash SplatのAE波形は立ち上がり時間が長いことが判明した。また、各種SplatのAE波形での立ち上がりパターンが大幅に異なることも判明した。以上を用いて溶射粒子形状とAE波形の特性との関連性を明らかにした。

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溶射法を用いたプラスチック成形用金型の高機能化 
 現在、プラスチック材料は体積で比較すると鉄鋼以上に使用されており、そのほとんどが射出成型されている。射出成型では大量生産によって多くのメリットが生じるが、その生産性を低下させるいくつかの問題点が存在する。本研究ではいくつかある問題点の中のスライドコアへの焼き付き、金型内樹脂温度の不明、ウエルドラインの発生の問題を取り上げ、溶射法を用いて金属溶射皮膜と低摩擦係数のポリマーとの2層皮膜を作成し解決を図りました。
 
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金属−ポリマー2層皮膜の転動疲労挙動
 機械の機能を最大限に発揮するためには、回転、往復、揺動など相対運動する機構部品の摩擦制御が重要である。近年,各種機械や装置の高性能化によりそれらの使用条件は,より過酷になっていくとともに長寿命が求められるようになってきている。そのため,そこに使用する部品は,単一の材料で作成されるのでは,性能を満足させることが困難になってきた。摩擦係数を下げることにより、省エネルギーが、また、摩耗を防止することにより、機械の寿命を延ばすことができる。真空中や医療機器など種々の制約から潤滑油、グリースを適用できない場合がある。当研究室では、このような観点から金属溶射皮膜と低摩擦係数のポリマーを組み合わせ、高耐摩耗性、低摩擦係数皮膜を開発、設計する

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チタン合金のスプレーフォーミングに関する研究
 チタンは、高い比強度であるため、発電用、航空機用ガスタービンエンジンでは、重量の23%は、チタン合金などが多用されている。しかし、溶融状態のチタンは、耐火物、酸素や窒素ともに反応しやすい極めて活性な金属である。これらの問題から、今まで圧縮ブレードの製造では、特別な溶解炉とコストや時間を必要とした。また、優れた加工性、低コストの材料の耐食性や強度を補うことも考慮にいれて、チタン皮膜自身も十分な強度を持たせるために、作動ガスに不活性ガスを用いることで材料の変化が少ない利点を持つプラズマ溶射法を用い製作することとした。そこでまず、チタン合金のどのような条件で溶射を行えば目的に見合った皮膜が、得られるのか見つけ出すことを初期目的とした。


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溶射皮膜の破壊挙動と残留応力
 溶射皮膜を用いた機械部品の設計に当たって、皮膜の機械的強度を定量的に評価することが必要であり、そのためには、まず皮膜の破壊メカニズムを明らかにする必要がある。しかし、皮膜が破壊に至るまでの微視的なき裂の発生メカニズムの研究は少ない。よって本研究では皮膜に機械的負荷を与えた際の微視的き裂発生のメカニズムを明らかにすることおよび溶射皮膜の残留応力がき裂発生過程に及ぼす影響を検討することを目的とした。


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 真空アーク処理の溶射前処理への適用

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