大気雰囲気熱プラズマCVDによる柱状組織PSZ皮膜の形成 関井俊英(M1),遠藤 康(B4),斎藤貴輝(B4) 部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia: PSZ)は、耐熱性、高温強度に優れるのみならず、高い靭性、イオン伝導性を有していることから、発電用、ジェットエンジン用タービン翼の熱遮へいコーティング(Thermal Barrier Coating: TBC)のトップコート層や固体電解質型燃料電池(SOFC)の電解質など、エネルギー分野で広く用いられています。しかしながら、TBCやSOFCは熱サイクルを伴う高温環境下で使用されるため、現在主流をなしている溶射法、焼結法で形成されるラメラ組織のPSZでは、運転中にPSZ内部に縦横に発生するき裂が皮膜のタービン翼からの剥離や電解質の欠損を引き起こし、耐熱性、イオン伝導性を著しく損なうという問題を抱えています(図1a)。近年ではこの問題を解決するため、き裂の水平方向への進展を抑える柱状組織PSZ膜が開発され、タービン翼や固体電解質の長寿命化が図られるようになりました(図1b)。しかし、柱状組織膜の成膜法であるEB-CVDは、成膜速度が遅い、真空設備を必要とするため設備導入およびメンテナンスコストがかかるという欠点を抱えています。そこで本研究では、大気雰囲気下で高速に柱状組織膜が形成可能なプロセスの開発を目的とし、その基礎検討としてジルコニウム錯体を皮膜形成物質とした熱プラズマCVDによるPSZ皮膜の形成を行うとともに、その皮膜組織のSEM観察およびX線回折による皮膜組成の分析を行いました。 ![]() 熱プラズマCVD装置は図2に示すような構造になっており、ビーカーに入れたジルコニウム錯体をマイクロチューブポンプで汲み上げ、プラズマトーチ先端の供給ポートからプラズマジェットに注入することによりPSZ皮膜の気相合成を行いました。 その結果、ジルコニウム錯体をプラズマジェット中でプラズマジェットに巻き込まれた大気中の酸素と反応させることにより結晶性のよいPSZ皮膜が得られたうえ、成膜条件を緻密に制御することによりこれまで大気圧下のプロセスでは困難とされていた柱状組織膜の形成に成功し(図3)、本プロセスが高速柱状組織膜形成プロセスとして有用であることを示唆する結果が得られました。今後は皮膜の機械的特性、熱サイクル特性を調べて行く予定です。 ![]() <本研究に関連する文献> ・
関井俊英,安藤康高,戸部省吾:「大気雰囲気熱プラズマCVDによるZrO2皮膜の形成」,日本機械学会関東支部関東学生会第39回学生員卒業研究発表講演会講演別刷集
(1999) pp.79-80. ・ 安藤康高,関井俊英,戸部省吾,田原弘一,吉川孝雄:「開放大気下における熱プラズマCVDを用いたZrO2皮膜の形成」,プラズマ応用科学, 8
(2000) pp 45-50. ・ 関井俊英:「TPCVDによるガスタービン用PSZ耐熱防護膜の形成」,日本機械学会誌104, 986付録「メカトップ関東」(2001)
p.12. ・ 安藤康高,戸部省吾,田原弘一,吉川孝雄:「熱プラズマCVDによる大気雰囲気下でのPSZ皮膜の形成」,プラズマ応用と複合機能材料, 10
(2001) pp.67-70. ・ Y. Ando, S. Tobe: "Zirconia film Deposition by Thermal Plasma
Assisted Chemical Vapor Deposition in Open Air", Research Reports of
Ashikaga Institute of Technology, 32 (2001) pp 47-53.
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