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エオリアンハープ aeolian Harp の紹介ページです。

エオリアンハープ aeolian Harp

 長野県上田市の石井栄古楽器工房のご協力を得て「風で奏でられる楽器、エオリアンハープ」についてあれこれ考えています。



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エオリアンハープはとても変わった楽器です。上図のように1/fのゆらぎを示し、聞いていても気持ちがとても休まります。
この特徴を生かして、かつては精神療法にも用いられました。17世紀から19世紀にかけて大変流行しましたが、 当時のもので良い状態で現存するものはなかなか見つかりません。浜松の楽器博物館には19世紀イギリス製のものが 展示されています。これに基いて長野県上田市の石井栄古楽器工房がエオリアンハープを復元しています。ネット上でも 海外のサイトですが、エオリアンハープを販売したり、説明したりするページがあります。そこには驚くべき記述があります。 それは、「エオリアンハープが発する音は弦のチューニングには関係なく、弦直径と風速のみで決まる。」 というものです。弦楽器でこのようなことがありえるのでしょうか?
 上の図にその答えがあります。エオリアンハープの音の発生のメカニズムは、よく知られたかルマン渦です。 カルマン渦が原因の音には自動車のアンテナの風切音や、強風時の電線から聞こえる音があります。このどちらも 音を出しているのは空気であり、アンテナや電線が振動しているわけではありません。エオリアンハープは、カルマン渦が 加振力となり、弦が振動し、音を出しているのは弦です。この音を本体の共鳴により拡大しているので、楽器職人でなければ 作れないのです。このカルマン渦の振動数は f=v/(5d) という経験式が表すように、風速vと弦直径dにより決まってしまいます。では弦はこの加振力のなすがままにゆすられている だけなのでしょうか?そんなことはありません。エオリアンハープは細長い本体を持ち、弦も長く張られていて通常の風では 数倍音から十数倍音で振動しています。弦は、カルマン渦の振動数が自分自身のどのモードの振動数と近いかを見極めて そのモードで振動するのです。風速が変われば当然このモードも変わります。ところで、チューニングを変えた場合は どうなるのでしょう?上の図にのこぎり屋根のような形状のグラフがあります。これは風速を一定にして弦のチューニングを 少しずつ変えていったものです。多少のチューニングの変化では弦はチューニングされたとおりに音程を変えていきます。 これはネット上で多くのサイトが主張するエオリアンハープの特徴とは食い違います。 しかし、さらにチューニングを変化させ、もう我慢できないという固有振動数になってしまうと、 加振力の振動数に従うのがスジですので、倍音数をひとつ上げる(あるいは下げる)ことでまたカルマン渦の周波数に 近付こうとするのです。つまりのこぎりの歯がある狭い範囲に収まっているということで、巨視的にはチューニングに 無関係という不気味な特徴を示すのです。

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 さらに、エオリアンハープは数値解析の結果また別のおもしろい特徴を持つことが分かりました。それは通常の楽器が 「ウルフトーン」として嫌う特徴です。エオリアンハープは細長い角柱の形状をしているため、長さ方向に節のできる 固有振動モードの振動数は非常に接近しており、節が幅方向にもできるようになってはじめて固有振動数は 大きく変化します。このためスペクトルはある周波数に強く反応する「ウルフトーン」と呼ばれる傾向を示します。 通常、この傾向をもつ楽器は扱いにくいとして嫌われるのですが、エオリアンハープはウルフトーンを積極的に利用し、 自然風でも少しでもなりやすくと工夫した結果、このような形状に落ち着いたようです。
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