雑木林の庭

 NHKテレビが「ターシャ・テューダの庭」を放映していました。アメリカ・ニューイングランド地方のバーモンド州の町はずれにある30万坪に及ぶ庭には、彼女が丹精を尽くした季節の花が咲き乱れておりました。画家であり、作家であり、本格的な庭師で、腕利きの料理人でもあるターシャ・テューダは、1915年生まれの91歳。庭づくりを始めたのは57歳からとのこと。彼女のライフスタイルには胸を打つものがありました。
 また、北海道紋別郡滝上町に一人で50年かけて2万3千坪の花園を造り、約800種類の花を4月下旬から9月下旬まで次々と咲かせている高橋武市という人の「陽殖園」の放映も見ました。50年も一人で花園造りとは大変なことです。
 いずれも広大な土地に時間をかけてなされた夢のような話で、真似ができるようなものではありませんが、狭い土地であっても自分の思うような庭を造ってみたいと改めて思いました。と言うのは数年前から自分だけの庭造りの夢を持って少しずつ手がけていたのです。
 5年前のことになります。自宅の北側に地続きの土地が売りに出されました。この土地はY乳業の一戸建ての社宅があった土地です。「隣接の土地は借金してでも買え」とか「隣の土地は3倍出しても買え」とか言われています。買った後どのように利用するかもありますが、半ば衝動的に思い切って買うことにしました。
 社宅は壊されて平地になっておりました。とりあえず上の土と下の土を入れ替える天地換えをしてもらいました。瓦礫や小石がたくさん入っている土ですが、これによってシャベルを受け付けるようにはなりました。畑と駐車場のスペースを決め、残りは自分の好きに使う庭造りの場所と考えました。このとき私は還暦で民間会社を定年退職し、非常勤の仕事が始まっておりました。自由になる時間は増えてくるだろうが、残された年月は限られるだろうから、早めのスタートが必要です。
 開発が進んで緑が失われていく中で、「里山を守れ」という主張に共鳴しておりました。できることなら雑木林を造りたいと思っていたこともありました。雑木林といったら大袈裟ですが、クヌギやコナラなどの雑木が何本かあり、その下に山野草が季節ごとに咲いている場所なら、土地が確保できたので自分でもできるのではないかと考えたのです。蝶の食草や求蜜植物を植え、そこでは蝶が舞う、狭い空間でも生き物の生態を見守ることができる。このような場所をイメージしました。
 約40坪のスペースです。まず雑木を植える必要があります。次の年の梅雨の頃、クヌギとコナラの幼木を30本ほど植えました。クヌギは大学構内に落ちていたどんぐりから芽生えた実生です。コナラは我が家の南側にある雑木林の周縁に芽生えていたものです。ほとんどが根付きましたが、3年経過した昨年、さすがに多過ぎるのでクヌギ7本とコナラ2本を残してあとは処分しました。根を掘り上げるのは大変なことでした。これでも多いと思います。大きなものは5メートルを越えていますので、これからは上部を切り詰めていかねばなりません。モミジ、ニシキギ、ナナカマド、ヒメリンゴ、ハナカイドウ、エゴノキ、シャクナゲそれに梅、柿、リンゴ、ユズの果樹や、蝶の食草としてのサンショウ、コクサギ、蝶の集まるブットレア(英語ではバタフライブッシュ)も植えました。
 草花の方はオミナエシ、フジバカマ、バーベナ、リアトリス、マツモトセンノウ、シュウメイギク、スイセン、イカリソウ、オキナグサなど。ジャコウアゲハの食草のウマノスズクサ、ルリタテハの食草のホトトギスもあります。
 絶滅が心配されているオキナグサは、一昨年信州の知人から種を送ってもらい挑戦したものです。種蒔きをした次の年には30株ぐらいの花を見ました。その株からの種を蒔き、また自然のままに飛んだ種から生えたものもあり、今年は倍以上の花を見ることができると思います。また、つくばの友からキツネノカミソリ、カラスウリ、サネカズラなどの種が届いております。今年はこれらに挑戦しようと思っております。いずれにしても草花はこれからです。
 やることはたくさんあります。土づくりも必要です。木々の間を歩く道も必要です。常日頃の木の剪定、雑草取りも必要です。長年の畑仕事から雑草との戦いであることも認識しております。ターシャ・テューダの庭は、冬は2メートル近い雪が積もり、1年のうち5ケ月は雪に覆われている土地です。群馬のこの地は雑草の数と生育状況が全く違うと思います。
 自分独自の庭造りはまだ緒についたところです。近いうちに40坪ほどがちょっとした雑木林のようになって、その周辺に山野草などの多くの花が咲き、蝶などの生き物の生態が観察できる。全ての仕事を終えて第三の人生を歩み出したとき、ここが最高の癒しの空間となっている。これが私の夢です。