足し算人生

 「禅の友」という曹洞宗宗務庁発行の小冊子を、毎月こぶ観音・明言寺さんで催される坐禅会や写経会に参加する折にいただいております。この禅の友の今年の1月号に、オパール・ネッワーク代表の佐橋慶女さんが「希望と夢をもって前向きに〜いくつになっても“足し算人生を”〜」という1000字ほどの文を寄せられておられました。
 佐橋慶女さんは46歳のとき出家得度し、中高年の自立、自助をサポートする“オパールネットワーク”を主宰され、高齢問題ジャーナリストとして、また「おじいさんの台所」で日本エッセイストクラブ賞を受賞したエッセイストとしても活躍されている方です。
 今年76歳とのことで、70歳を迎えた6年前に「毎年一つ、七十の手習い」を宣言して、実行してこられたそうです。70歳でパソコンとデジカメ、71歳はマラソンをはじめる(山中湖一周)、72歳は海のウォーキング(北ドイツの海で干潮時に島へ渡る)、73歳は書を習いはじめる。74歳はヨーガをアレンジしたストレッチをはじめる、75歳、全国をグルメ旅しながら生活文化の知恵辻聞き書き辻説法、76歳、プールの中をウォーキング。これをずうっと続けているそうです。
 この“足し算人生を”を読んだとき、直感としてこのようにありたいと思いました。私は佐橋慶女さんより11歳年下です。佐橋さんの年になるまで元気だとすれば、これから11の新しいことができることになります。たとえ続けることができないテーマであったとしても、毎年新しいことに挑戦できるならそれで良いと思います。
 5年前に私は60歳となり民間会社を定年退職しました。退職後は会社時代に苦労した「収支」や「品質」に関係しない好きなことをやりたいと思いました。幸い非常勤ですが、大学で教え、研究するチャンスを得ましたので、その後の5年間はそれを主体に過ごしました。大学内に研究室と実験室を確保し、企業からの援助で熱交換器の試験装置を作り、企業などとの共同研究や委託研究を受け、共同研究者にも恵まれて、論文もこの5年間に15編ほど執筆しました。委託を受けた企業のお役に立っているはずです。
 ただこのようなことを続けるにしても、あと数年でしょう。昔からの知り合いで協力いただいている企業の方々も私同様に年をとり、第一線を離れて退職していきます。私の方も研究費以上のことを企業にお返しするための気力と体力を持ち続けるのが困難になってくると思われます。
 ところで、佐橋慶女さんに倣って、私の60歳からの5年間の“足し算人生”がどうだったかを考えてみました。結果的には新しいことに挑戦して、今までになかった分野に進出することができました。60歳は両毛地域産業イノベーション協議会のコーディネータとして足利・館林地域の企業訪問、61歳は大学内に研究室を確保し、熱交換器の試験装置を製作、62歳は卓球をするグループに入り、週に1日運動をする。63歳は「栽培ハウスの熱環境性状とエネルギー消費量」など熱交換器以外のテーマに新たに進出、64歳は雑木林の庭を作る。数年前には思ってもいなかったようなことが次々と出てきて、上手く行きました。コーディネータとしての企業訪問は、国からのお金が3年間だったこともあり、協議会の活動が縮小されて3年で終わりとなりましたが、あとは全て続いています。
 65歳の半年を経過した今、“足し算人生”の65歳は何になるのだろうかと考えます。ホームページに「マイガーデン」や「マイファーム(農園)」を載せたいので、春先から庭や畑の写真を撮り続けております。運営委員として参加しているカンボジアへの教育支援ボランティアは10年を経過し、「ボランティアこぶの会創立10周年記念活動報告展」を行いました。あるいは高校時代に同じクラブに所属した仲間と上高地や赤城自然園、ぐんま昆虫の森を訪れ、植物や蝶を楽しみました。このようにいくつかのことが継続しております。これからも好奇心と夢と希望を持って、いまが青春と思いながら自分を育て、佐橋慶女さんのような“足し算人生”を送りたいものです。