里山林の再生

 我が家の道路を隔てて南に1500坪ほどの放棄された里山林があります。この里山林の北側に土地を求め、家を建てたのは34年前の昭和50年のことです。昔はここにある雑木を伐採して煮炊きに使っていたと聞いたことがありましたが、私がこの地に住むころにはそのようなことはなく、この里山林に手が加えられることは殆どありませんでした。
 里山林は道路に沿って100メートルぐらいの長さがあります。山のない平地の大泉町の中に残された貴重な平地林です。クヌギとコナラを主体にした雑木林で、約50本の大木の下にはアオキ、ヤツデ、ヤブツバキ、ヒイラギ、シュロなどの常緑樹が所々に生えておりますが、大部分はアズマネザサが密生し、向こうが見えない状態で、いわゆるササ型林床となっています。
 当然のことですが、この雑木林には持ち主がおられます。何代か前から相続がされておらず、相続人が全国に散らばっていて、売買ができないと聞いたことがあります。
 我が家からはこの里山林は、庭先に繋がる借景となっております。雑木が芽吹き新緑に変化する時期、雑木が黄色になり落葉する時期は、我が家にお客様をお呼びする最適なときです。里山林の長所は、何と言っても貴重な緑。小鳥や蝶、クワガタなどの昆虫もいて、自然が残っていることです。また夏の夜は冷気の張り出しもあって気温は低くなると思われます。
 一方短所は、雑木が大きくなっているので、冬場には庭の日当たりが阻害され、落葉は道路はもとより庭に舞い込み、掃除は大変で、やぶ蚊の発生もあります。無用心で、更にタイヤや缶、ビンなどの不法投棄もあります。いろいろと短所はありますが、それでもやはり身近の緑は残したいものです。
 まだ芽吹きも始まらない2月、道路沿いの木の何本かが頭をつめられ、この里山林に手が加えられたのです。そして、林の南側の道路沿いに「不法投棄禁止」のたて看板が立てられました。里山林の南側には地区の公民館や運送会社があり、人目が行き届かず、タイヤやゴミなどの不法投棄が目立つことから、公民館の役員さんが町に働きかけた結果と聞きました。
 私は前々からこの里山林は放置するのではなく、最小限の手を加えて、少なくとも30数年前に近い状態に保ちたい、私一人でできる範囲内ででも林の整備をしてやろうと思っておりました。そこでこの機会に我が家の南前方、借景にあたる林床部・百坪ほどの広さのアズマネザサや常緑樹を伐採することにしました。そしてこのことを以前から一緒に整備しようと話をしていたIさんに伝えました。
 Iさんは行動力のある人で、やる以上はきちんとしようと、町役場へ出向き、役場の人を通して持ち主と話しをして、林床部の整備の了解をとりました。丁度町役場の担当管理職がIさんの幼馴染だったそうです。その後、Iさんから地区の有志の方々に呼びかけていただき、4月4日の土曜日に10人ほどの人が集まり、アズマネザサの伐採や不法投棄のゴミ集めをしました。
 集められたタイヤは100本以上、ビン、缶の類は数えようもなく、自転車、脚立、バッテリーなどの大型ゴミや、プラスチック、本などの可燃物も大量にありました。アズマネザサなどの伐採はこの日に1500坪の半分程度は済んだものの、残した半分は後日、Iさんほかの方々に、電動カッターを駆動してやっていただきました。
 とりあえず1500坪の里山林の林床部の整備はできました。伐採したアズマネザサや常緑広葉樹はそのまま朽ちるのを待つ状態です。既にアズマネザサは新しい茎を伸ばしております。3年ぐらいは伐採を続けないと、アズマネザサの勢いは衰えないと聞いております。また、タイヤなどの処理ができないうちに、既に新たな不法投棄もあります。まだまだ先々にたくさんの取り組みが必要です。
人手を全く加えず里山林を放置することで、落葉広葉樹林が常緑広葉樹林に変わったり、アズマネザサが生い茂ったりするのが、なぜ悪いかという論議もあると思います。しかし、適度に人手が入ることで、先人が守ってきた里山林を維持し、その中に多様な生態系が育まれていくのを私は望みたいです。人の感性は育った過程で接した自然によって培われると言われています。個人の力はわずかでも、皆でこの里山林を守ることで、何かを子供たちに伝えることができたら良いと思っております。