産学官連携に思う |
先日、国立京都国際会館で行われた「第1回産学官連携推進会議」へ出席しました。足利工業大学総合研究センターに籍を置いておりますので、大学の一員として参加したわけです。産学官の各分野から3600人という最大規模の会議でした。こんなに大きな会議に出たのは初めてのことです。
主催は内閣府、日本経済団体連合会、日本学術会議の共同開催で、尾身幸次科学技術政策担当大臣による「産学官連携による日本経済の活性化」と題する基調講演が行われました。スイスの経営開発国際研究所が発表した2002年度の「世界競争力年鑑」によると、日本全体の競争力は1993年の1位から、2002年は30位、特に大学教育が競争経済のニーズに見合っているかという設問では、49カ国中最下位の49位だそうです。 今大学は転換期にあります。少子化に伴い2009年には大学、短大で「全入時代」がやってくると言われています。大学間競争の激化、国立大学の非公務員型法人への移行、大学の連合、統合再編など「生き残り」をかけた動きも急です。私立大学・短大には定員割れを起こしている大学も多く、大学の倒産も現実味を帯びています。 このようなときに、日本経済再生のために産学官連携を強力に進めようという動きが出てきました。米国では大学から産業界への技術移転を促進する環境整備に精力的に取り組み、その結果、シリコンバレーなど大学発ベンチャーの新規事業が創出され、1980年代の経済低迷からの脱却に大きく貢献したと言われています。近年、欧州やアジア諸国でも米国型の産学連携を積極的に導入しています。日本でも、バブル後の失われた10年の対策として、あるいは総合雇用対策の一環から、産学連携に関する多くの施策が展開され、前述の「第1回産学官連携推進会議」も大々的に催されたわけです。 大学の使命は次世代の社会を担う中核的人材を育成するとともに、将来を見据えた質の高い研究を行うことと言われています。しかし、米国において産学連携が自国経済の発展のみならず、大学の活性化に寄与したことから、産学官連携活動を自由に行える環境整備が必要なことは間違いありません。 私はこの1月で民間企業を定年退職しました。非常勤とはいえ今大学に籍を置く者として、民間企業と大学の両方を知る立場から、足利地域の企業との接触をしながら社会のお役に立ちたいとの思いを持っております。大学で技術相談などを待っていても、企業からの相談が常に来るわけでもありません。それなら出前をして企業を訪問したらどうかと、4月から月に数回出向いてきました。技術相談テーマとして取り上げたり、共同研究あるいは委託・受託研究へ移行しそうなテーマも出てきています。 大学の先生方は必ずしも産学官連携に熱心なわけでもありません。熱心な方10数パーセントとのデータを見た覚えもあります。先生方は教育ほかで産学官連携に手が回らないというのが本当のところかも知れません。産学官連携の私案を述べれば、主体はやはり企業と思います。企業はニーズを大学へ教え、企業は大学からシーズを貰うというよりは、アプローチを貰うことになると思います。大学はシーズの売り込みの努力をせねばなりませんが、今実際にできるのは企業ニーズの相談に乗って、理論的な展開や一緒に考えることのレベルでしょう。企業と大学のお互いの立場を明確にし、テーマの捉え方やスピードの差を考慮せねばなりません。このようなことが分かった上で、企業のニーズと大学のシーズを結びつけるコーディネータの役割が大切となります。企業の技術が分かり、経営が分かり、大学のことも分かって、動くことのできる仲人のような人材で、その確保あるいは養成が急務です。 このたび私は足利商工会議所の推薦もあり、4月に発足した両毛地域産業イノベーション協議会のコーディネータをすることになりました。適当な方がおられるかも知れませんが、せっかく推薦いただいたことですから、やってみることにしました。足利だけでなくもう少し広い範囲で多くの企業を知り、産学官の分野に多くの知己が得られるでしょうし、日本経済の活性化に少しはお役に立てるのではないかと思います。何事も人間関係から始まることも多いわけで、このようなコーディネータ活動の中から、企業と大学の若い人同士の交流ができれば、いずれ若い人がそれぞれ偉くなって、そのときには本当の産学官の連携ができると確信します。 |