ホソオチョウ |
「ホソオチョウ」という名の細長い尾状突起を持つ蝶が日本に生息しています。約30年前の1978年(昭和53年)に東京都で初めて発生が確認され、その後、局所的に分布を広げ、当地でも渡良瀬川の土手で姿を見ることができます。 もともとは朝鮮半島〜中国大陸に分布する種で、蝶の愛好家が韓国から違法に日本に持ち込んだとする説が一般的です。その子孫を人為的に各地に放蝶したことから各地に広がったと考えられています。 ホソオチョウの幼虫の食草は、日本に生息するジャコウアゲハと同じウマノスズクサです。ホソオチョウが入ったことで、ジャコウアゲハとの競合が懸念されるという説と、ホソオチョウの分布は限られるので、いずれ近親交配が進んでいなくなるだろうという説があります。放蝶に由来すると考えられる分布拡大が見られることなどから、ホソオチョウは現在「要注意外来生物」に指定されています。 このホソオチョウはなかなか優雅な蝶で、オスはウマノスズクサの生えている場所から殆ど離れず、ゆっくりとフワフワ飛んでいます。この姿はジャコウアゲハより更にゆっくりとフワフワ舞い、優雅です。ただしメスは活発で、素早く飛んで姿を消してしまいます。 我が家では、ウマノスズクサを植えてジャコウアゲハ定住作戦を開始して以来、約10年にわたってジャコウアゲハの発生が継続されています。このジャコウアゲハの育成地にホソオチョウが今年長期にわたって現れたのです。今までも2006年にはホソオチョウのオス1匹を捕獲、2007年には幼虫を見つけて駆除したことがありましたが、その後はホソオチョウを見ることはなく、我が家に住み着いてはおりませんでした。 それが今年は、8/13にホソオチョウの幼虫をウマノスズクサに発見、10匹を駆除しました。その後10日経った8/23の朝方数匹のホソオチョウが飛んでいるのを発見、オス5匹を捕獲。翌8/24にはオス3匹を捕獲、メス1匹を見ましたが、これは採り逃がしました。その後、9/12にオス4匹を捕獲し、9/20には幼虫11匹を退治しました。 幼虫については飛来した成虫が産卵してそれが孵化したものでしょう。飛び回っていたホソオチョウは、我が家で蛹となり、それが羽化したものでしょう。ホソオチョウの飛翔範囲は狭いと聞いています。我が家は渡良瀬川から10キロぐらいは離れています。人為的に誰かが放蝶したとは思えませんので、渡良瀬川以外の近いところにホソオチョウの生息地があるのか、それとも飛翔範囲が以外に広いのかが考えられます。 このように今年はホソオチョウを駆除しようと試みましたが、退治できなかった幼虫が蛹となり、冬を越して来春また発生してくるかも知れません。また飼育した記録によると、オスとメスの数は同じぐらいとのこと。そうするとメスを退治するのは難しいので、継続して今後発生を繰り返すことになるかも知れません。 30年の長きを経て、我が家へ辿り着いたホソオチョウを人為的に駆除しなかったらどうなるか、見てみたいという気持ちも残っております。知人で蝶の生態に詳しい桐生にお住まいのK氏のお宅にもホソオチョウが来て、そのままにしておいたら、次の年には発生しなかったそうです。そのような話しを聞いて、もし来春に我が家でホソオチョウが舞うようなことがあったら、駆除せずにそのまま見守ろうか、それとも要注意外来生物に指定されているのだから駆除すべきか、どちらを選択するのか迷うところです。 最近読んだ朝日新聞の記事によると、かって外国産の生きたクワガタやカブトは植物防疫法で有害動物として輸入が禁止されていました。だが貿易自由化で規制が緩和され、現在年に100万匹も輸入されているそうです。そしてクワガタ類は環境への順応力が高いので、輸入種の大半は日本に定着できるだろうと言われており、いずれ日本各地で発生を繰り返すことになろうと思われます。 クワガタの輸入がOKの前提なら、ウマノスズクサしか食べないホソオチョウを自然のままにしておくことなど、何ら問題にならないレベルではないかとも思われます。奥本大三郎の随筆集「散歩の昆虫記」に出てくる昆虫少年憧れの、東南アジアに生息する「キシタアゲハ」や台湾の「アケボノアゲハ」も、ウマノスズクサの仲間を食べてなんとか生き残っているそうで、我が国の南の離島でウマノスズクサを増やして、それらの蝶を放し、町おこしをするアイディアも可能のような気がしてきますが、楽しい夢物語になるのでしょうか。 |