変人度

 65歳を過ぎるころから高校時代の同期生の集まりが活発になりました。私の母校は松本深志高校です。その東京近辺に居住する同期生の集まりに「十二志会セミナー」なる集まりがあります。同期生の中から講師を決めて、1時間程度の講演をし、その後アルコール付きでランチを食べながら懇談するという集まりです。「十二志会」というのは松本深高校12回卒業生の会の名称です。発起人はマーケティングリサーチ会社のVIPであるT女史ら。セミナーは4年前から始まり、6月に13回目の集まりがありました。私は8回分に参加しました。
 講師には大学の先生、民間会社の偉いさん、開業医、水先案内人など。未だ現役の人、OBとなった人と、多岐に亘ります。もちろん同期生の仲間ということで講演料なしです。始まって4年ですが、文科系、理科系を問わず広い分野に、講演できる同期生がたくさん居て、これからも講師の選定に当面困らないようですから、素晴らしい集団と思います。 ところで、第一回のセミナーは「ネパールでの医療活動」と題して浜松在住の心臓外科医のY氏が話されました。Y医師は浜松に住む外国人労働者の医療活動を熱心に進め、十七年に及ぶネパールでの活動の話しをされたそうです。皆さんは非常に感銘を受け、その後Y医師の活動を支えるためにも一度現地のネパールへ行き、実際に自分たちの目で確認しようという話となって、ネパール行きが実行されることになりました。お誘いは私も受けましたが、大学の授業を休講にしなくてはならないことなどからお断りをしました。
 ネパール旅行は昨年10月30日〜11月9日にかけて行なわれ、その旅行記が「マナステ!ネパール旅行」と題した本になり、参加された友人のK氏から年が明けた1月半ばに送られてきました。読み出したら止められなくて一気に読んでしまいました。「マナステ」はネパール語で「こんにちは、さよなら」という挨拶の言葉だそうです。
 ネパール旅行には女性4人を含む16人の方が参加されました。帰国されてから皆さん夫々がエッセイを書かれて、それをレイアウトして印刷・製本。僅か2ケ月で本にしてしまうという、バイタリティーと実行力に驚きました。
 団長は前述のT女史、事務局長も女性、エッセイの分量も女性陣が多量です。高校は400人の同期生のうち、女性は約1割ほどでしたが、この女性陣の凄さに敬服です。
 現地のネパール人にとってY医師は、神様のような存在で、旅行の先々で全員が大歓迎を受けたそうです。旅行記には、ネパール旅行をすることになったいきさつから始まり、生き神様のこと、トイレ事情、人々の暮らし、子供たちとの交流会、博物誌、ヒマラヤの山々、トレッキングのことなどの記載があります。
 この本に16名の参加者のプロフィールが載っております。多くは知っている人です。私と高校時代に博物会というクラブで一緒し、今でも自然相手の集まりを企画して一緒に出かけ、植物や蝶を見て喜んでいる二人の友人が参加しております。この本を届けてくれたK氏もその一人です。
 プロフィールには「変人度」という項目があり、星付けしてあります。それを見たとき、ユーモアがあり笑ってしまいました。変人度に四つ星の人が4人います。一人はネパールの生き神様のY医師。東大医学部を出たY医師がネパールの医療活動をしていること自体が変人度を高くしているのは何となく分かります。もう一人は東大農学部を出た「きのこ博士」。この人のプロフィールに、「高校では数学の天才であったが、100万円以下のお札の勘定はあまり得意でない。」とあります。旅行中に会計をして、集金したお金が合わなかったとか。
 残りの二人の四つ星変人が、高校時代に博物会というクラブで一緒し、今でも親しくしている友人のK氏とI氏。本を届けてくれたK氏は「ネパールで4kgもの石を拾って帰る。博物の大好きな変人。常にカメラ2台とGPSと音声レコーダーで全てを記録。珍しい石や植物探し、カメラスポット探しに、皆の倍は歩いている。」もう一人のI氏は「誰がなんといおうとわが道をゆく愛すべき
 学者。変人の女性に人気。博学で一度話しを始めたらなかなか止まらない。」とあります。 お二人とも高校時代に興味のあったことの延長線上の仕事に従事し、民間を知らずに国立の大学や研究所で勤め上げた人。仕事上の業績は立派であろうと思いますが、世間一般のことには無頓着な一面をお持ちのところもあるのでは。
 この二人の変人と親しく交わる私といえば、同じように高校時代に興味のあったことが忘れられず、定年後に庭や畑に山野草や蝶の食草を植え、庭で発生する蝶の写真や花の写真を撮り、半農半Xが目標と、工業大学で教え研究する以外は、残りの大部分を庭と畑仕事に費やしている。これは客観的に見たら、二人の友人と同じように私も四つ星変人の部類に入ることになるのでしょう。
 本の中に「卒業以来50年たった高校時代の生活をもう一度見つめ直し、新しい自分を発見し、明日に向かって進んでいくことができるのではないかと考えました。」とあります。本に登場する素晴らしい同期生の仲間から元気をいただいたと共に、変人度を気にせずに好きなようにこれからを過ごしたいと思った次第です。