大正八年法律第三十七號
市街地建築物法
昭和九年四月七日改正(法律第四十六號)
内閣総理大臣 齋藤 實
内 務 大 臣 山本 達雄
第一條 |
主務大臣ハ本法ヲ適用スル區域内ニ住居地域、商業地域又ハ工業地域ヲ指定スルコトヲ得
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主務大臣(当時は内務大臣)は、本法を適用する区域内に住居地域、商業地域または工業地域を指定することができる。
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第ニ條 |
建築物ニシテ住居ノ安寧ヲ害スル虞アル用途ニ供スルモノハ住居地域内ニ之ヲ建築スルコトヲ得ス
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住居の安寧を害するおそれのある用途に使用される建築物は住居地域内に建築することはできない。
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第三條 |
建築物ニシテ商業ノ利便ヲ害スル虞アル用途ニ供スルモノハ商業地域内ニ之ヲ建築スルコトヲ得ス
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商業の利便を害するおそれのある用途に使用される建築物は商業地域内に建築することはできない。
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第四條 |
工場、倉庫其ノ他之ニ準スヘキ建築物ニシテ規模、大ナルモノ又ハ衛生上有害若ハ保安上危險ノ虞アル用途ニ供スルモノハ
工業地域内ニ非サレハ之ヲ建築スルコトヲ得ス
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工場、倉庫、その他これらに準ずる建築物で、規模の大きなもの、または衛生上有害もしくは保安上危険のおそれがある用途に使用されるものは、
工業地域内でない場所に建築することはできない。
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主務大臣必要ト認ムルトキハ前項ノ建築物ニシテ著シク衛生上有害又ハ保安上危險ノ虞アル用途ニ供スルモノニ付テハ
工業地域内ニ於テ其ノ建築ニ付特別地區ヲ指定スルコトヲ得
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主務大臣が必要であると認めたとき、前項の建築物であって著しく衛生上有害または保安上危険のおそれのある用途に使用されるものについては、
工業区域内にその建築ついて特別地区を指定することができる。
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第五條 |
前三條ニ規定スル建築物ノ種類ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
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前3条に規定する建築物の種類は勅令(天皇によって制定される法令)でもって定める。
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第六條 |
前四條ノ規定ノ適用ニ付テハ新ニ建築物ノ用途ヲ定メ又ハ建築物ヲ他ノ用途ニ供スルトキハ
其ノ用途ニ供スル建築物ヲ建築スルモノト看做ス
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前4条の規定の適用について、新たに建築物の用途を定めるとき、または建築物を他の用途で使用するときは
その用途に使用される建築物を(新たに)建築するものとみなす。
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第七條 |
道路幅ノ境界線ヲ以テ建築線トス
但シ特別ノ事由アルトキハ行政官廳ハ別ニ建築線ヲ指定スルコトヲ得
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道路幅の境界線を建築線とする。但し、特別の理由があるときは行政官庁は別に建築線を指定することができる。
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第八條 |
建築物ハ其ノ敷地ガ命令ノ定ムル所ニ依リ道路敷地ニ接スルニ非ザレバ之ヲ建築スルコトヲ得ズ
但シ特別ノ事由アル場合ニ於テ行政官廳ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
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建築物はその敷地が命令で定められた道路敷地に接していなければ建築することができない。
但し、特別の理由がある場合で行政官庁の許可を受けたときはこの限りではない。
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第九條 |
建築物ハ建築線ヨリ突出シテ之ヲ建築スルコトヲ得ズ
但シ建築物ノ地盤面下ニ在ル部分ハ此ノ限リニ在ラズ
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建築物を建築線から突出させることはできない。
但し、建築物の地盤面下にある部分はこの限りではない。
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第十條 |
行政官廳ハ市街ノ計畫上必要ト認ムルトキハ建築線ニ面シテ建築スル建築物ノ壁面ノ位置ヲ指定スルコトヲ得
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行政官庁は市街の計画上必要と認めるときに、建築線に面して建築する建築物の壁面の位置を指定することができる。
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第十一條 |
建築物ヲ建築スル場合ニ於ケル其ノ高又ハ其ノ敷地内ニ存セシムヘキ空地ニ關シテハ
地方ノ状況、地域及地區ノ種別、土地ノ情態、建築物ノ構造、前面道路ノ幅員等ヲ參酌シ
勅令ヲ以テ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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建築物を建築する場合の高さ、またはその敷地内に設けるべき空地に関しては、
地方の状況、地域および地区の種別、土地の状態、建築物の構造、前面道路の幅員等を斟酌し、勅令で必要な規定を設けることができる。
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第十二條 |
主務大臣ハ建築物ノ構造、設備又ハ敷地ニ関シ衛生上又ハ保安上必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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主務大臣は、建築物の構造、設備または敷地に関して衛生上または保安上必要な規定を設けることができる。
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第十三條 |
主務大臣ハ火災豫防上必要ト認ムルトキハ防火地區ヲ指定シ其ノ地區内ニ於ケル防火設備又ハ建築物ノ防火構造ニ關シ
必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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主務大臣は、火災予防上必要と認めるときに防火地区を指定し、その地区内の防火設備または建築物の防火構造に関して必要な規定を設けることができる。
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防火地區内ニ於テハ建物ノ部分ヲ為ス防火壁ハ土地ノ疆界線ニ接シ之ヲ設クルコトヲ得
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防火地区内では、建物の部分となる防火壁を土地の境界線に接して設けることができる。
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第十四條 |
主務大臣ハ學校、集會場、劇場、旅館、工場、倉庫、病院、市場、屠場、火葬場
其ノ他命令ヲ以テ指定スル特殊建築物ノ位置、構造、設備又ハ敷地に關シ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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主務大臣は、学校、集会場、劇場、旅館、工場、倉庫、病院、市場、屠場、火葬場
その他命令でもって指定する特殊建築物の位置、構造、設備または敷地に関して必要な規定を設けることができる。
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第十五條 |
主務大臣ハ美観地區ヲ指定シ其ノ地區内ニ於ケル建築物ノ構造、設備又ハ敷地ニ關シ美観上必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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主務大臣は美観地区を指定し、その地区内の建築物の構造、設備または敷地に関して美観上必要な規定を設けることができる。
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第十六條 |
主務大臣ハ建築物ノ工事執行ニ關シ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
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主務大臣は建築物の工事執行に関して必要な規定を設けることができる。
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第十七條 |
行政官廳ハ建築物左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ除却、改築、修繕、使用禁止、使用停止
其ノ他ノ必要ナル措置ヲ命スルコトヲ得
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行政官庁は建築物が左の各号に該当する場合、その除却、改築、修繕、使用禁止、使用停止その他の必要な措置を命じることができる。
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一 | 保安上危險ト認ムルトキ |
保安上危険と認めるとき |
二 | 衛生上有害ト認ムルトキ |
衛生上有害と認めるとき |
三 | 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シテ建築物ヲ建築シタルトキ |
本法または本法に基づいて発する命令に違反して建築物を建築したとき |
第十八條 |
本法適用區域ノ設定若ハ變更地域若ハ地區ノ指定若ハ變更其ノ他ノ場合ニ於テ從來存在スル建築物カ其ノ後新ニ建築セラレタリトセハ
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反スヘキモノナルトキハ行政官廳ハ相當ノ期間ヲ指定シ其ノ建築物ニ付前條ニ掲クル必要ナル措置ヲ命スルコトヲ得
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本法適用地域の設定もしくは変更、地域もしくは地区の指定もしくは変更その他の場合で、従来存在する建築物がその後新たに建築され、
本法または本法に基づいて発する命令に違反となるとき、行政官庁は相当の期間を指定してその建築物に対して前条に掲げる措置を命じることができる。
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前項ノ規定ニ依ル措置ヲ命スルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ建築物所在地ノ公共團體ヲシテ損失ヲ補償セシ(ム?)
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前項の規定による措置を命じるときは、勅令の定めにより建築物所在地の公共団体に損失を補償させる。
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前項ノ規定ニ依リ補償ヲ受クヘキ者補償金額ニ付不服アルトキハ其ノ金額決定ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ズ
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前項の規定による補償を受ける者は、補償金額について不服があるときにその金額決定の通知を受けた日から三ヶ月以内に通常裁判所に提訴することができる。
この場合、再審請求または行政裁判所に提訴することはできない。
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第十九條 |
建築主、建築工事請負人、建築工事管理者又ハ建築物ノ所有者若ハ占有者
本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ為ス處分ニ違反シタルトキハ二千圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
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建築主、建築工事請負人、建築工事管理者または建築物の所有者もしくは占有者が、
本法もしくは本法に基づいて発する命令またはこれに基づいて行われる処分に違反したときには二千円以下の罰金はたは科料に処する。
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第二十條 |
前條ノ規定ハ前條ニ掲クル者未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス
但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者其ノ營業ニ關シ前條ニ規定スル違反ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
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前条に掲げる者が未成年者または禁治産者(精神障害等で正常な判断能力を欠く者)であるときにはその法定代理人に前条の規定を適用する。
但し、成年者と同等な能力を持つ未成年者が営業に関して前条に規定する違反を行ったときはこの限りではない。
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前條ニ掲クル者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者
其ノ營業ニ關シ前條ニ規定スル違反ヲ為シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス
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前条に掲げる者は、その代理人、戸主、家族、同居者、雇い人その他の従業者がその営業に関して前条に規定する違反を行ったときに
自身(建築主等)の指揮によって行ったため、処罰を免れることはできない。
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前條ニ掲クル者法人ナルトキハ明治三十三年法律第五十二號ヲ準用ス
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前条に掲げる者が法人であるときは、明治三十三年法律第五十二号(法人ニ於テ租税及葉煙草専売ニ関シ事犯アリタル場合ニ関スル法律:法人租税事犯法)を準用する。
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第二十一條 |
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官廳ノ為シタル處分ニ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
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本法または本法に基づいて発する命令に規定する事項について、行政官庁が行った処分に不服があるものは訴願することができる。
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本法ニ依リ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
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本法により行政裁判所に提訴する場合、主務大臣に訴願することはできない。
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第二十二條 |
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官廳ノ為シタル違法処分ニ因リ權利を毀損セラレタリトスル者ハ行政裁判所に出訴スルコトヲ得
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本法または本法に基づいて発する命令に規定する事項について、行政官庁が行った違法処分によって権利を毀損された者は行政裁判所に提訴することができる。
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第二十三條 |
本法適用ノ區域ハ主務大臣ノ指定スル市街地トス
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本法適用の区域は主務大臣が指定する市街地とする。
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特別ノ必要アル場合ニ於テハ主務大臣ハ前項ノ市街地ノ外ニ亙リ本法適用ノ區域ヲ指定スルコトヲ得
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特別に必要がある場合に、主務大臣は前項の市街地の外にわたって本法適用の区域を指定することができる。
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第二十四條 |
本法ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ建築工事中ノ建築物、建築工事ニ着手セサルモ設計アル建築物又ハ建築物ニ非サル工作物ニ之ヲ準用スルコトヲ得
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勅令によって建築工事中の建築物、建築工事に着手していないが設計されている建築物、建築物でない工作物に本法を適用することができる。
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第二十五條 |
本法ノ全部又ハ一部ノ適用ヲ必要トセサル建築物ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
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本法の全部または一部の適用を必要としない建築物は勅令によって定める。
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第二十六條 |
本法ニ於テ道路ト稱スルハ幅員九尺以上ノモノヲ謂フ
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本法で道路と称するものは、幅員九尺(約2.7m)以上のものをいう。
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道路ノ新設又ハ變更ノ計畫アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ計畫ノ道路ハ之ヲ道路ト看做ス
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道路の新設または変更の計画があるときは、勅令によりその計画道路を道路とみなす。
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附則 |
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム |
本法施行の期日は勅令によって定める。 |
從前ノ第二十三條ノ規定ニ基キ指定セラレタル區域ハ同條ノ改正規定ニ依リ指定セラレタルモノト看做ス |
これまでの第二十三条の規定に基づいて指定された区域は、同条の改正規定によって定められたものとみなす。 |