目視検査小型ロボットとスマートセンサ端末の併用による安全点検

 

足利工業大学 仁田佳宏

 


1.       はじめに

近年のロボット技術の急速な普及により、産業ロボットだけでなく、ホビーロボットやレスキューロボットといったようにロボットが幅広く活用されつつある。建築・土木分野においても、住宅の床下、外壁の剥離、橋梁などの検査などに活用されつつある1 - 4)。また、半導体技術の技術革新により、MEMSセンサー、マイコンおよびRFIDなどの半導体製品も、種々様々な分野で活用され、建築・土木分野においても、MEMSセンサーとマイコンによるワイヤレスセンサーやRFIDによる損傷検知など多様な構造ヘルスモニタリングシステムが提案されている5 - 8)。しかし、ロボット技術による検査とワイヤレスセンサーやRFIDによる損傷検知を融合した手法は少なく、ロボットとワイヤレスセンサーやRFIDともに活用した研究は少ないのが現状である。

本研究では、ロボットの移動性とマイコンセンサー端末の応答計測性能を活かした簡易なシステムの開発を目的として、ワイヤレスカメラ搭載ロボットとマイコンセンサー端末を融合したモニタリングシステムの基礎的な研究を行う。提案システムでは、マイコンセンサー端末により簡易な損傷検知を行い、ワイヤレスカメラ搭載ロボットにより目視検査とマイコンセンサー端末の損傷検知結果の収集を行う。また、ロボットとマイコンセンサー端末間の通信は、省電力かつ簡便に行うことを前提として、赤外線通信を用いることとする。

 

2.       マイコンセンサー端末

8bitマイコンのひとつであるPIC16F88を用いてFig.1に示すようなマイコンセンサー端末を製作した。使用したPIC16F88は、7ch10bitA/D入力が可能である。マイコンセンサー端末は、加速度応答を計測する目的で、3軸のMEMS加速度センサーを装備している。また、導電性塗料や導電性テープを用いた亀裂検知を行うためのデジタル入力端子を2ch装備している。

 

3.       ワイヤレスカメラ搭載ロボット

ロボットは、16bitマイコンのdsPIC30F4012とワイヤレスLANおよびワイヤレスカメラを搭載している。ワイヤレスLANにより、PCからロボットを操作することが可能である。また、dsPIC30F4012A/D変換とIRセンサーを用いた障害物検知と落下防止機能により、自律移動も可能である。製作したロボットをFig.2に示す。ワイヤレスカメラは、30万画素で、映像通信距離が見通しで30mであり、ビデオキャプチャーを用いることでPC上に動画として保存することが可能である。また、PCよりカメラのアングルを上下方向に移動することが出来る。左右方向については、ロボットの移動によって行う。ロボットの操作画面とカメラ映像をFig.3に示す。

 

4.       赤外線通信

ロボットとマイコンセンサー端末間の通信は、38kHzの変調周波数による赤外線通信を用いる。38kHZ変調の赤外線通信は、テレビなどのリモコンに用いられている簡易な通信手法である。本システムおいて、赤外線通信は、マイコンセンサー端末上の赤外線LEDとロボット上の赤外線受光素子で行い、マイコンセンサー端末からロボットへの一方向通信である。

 

5.       モニタリング実験

 デジタル入力端子につないだ導電性テープを構造部材に添付しておくと、部材の亀裂発生時に導電性テープの破断により断線が生じるため、亀裂検知が可能となる。本研究では、デジタル入力を意図的に変化させ、亀裂検知の模擬実験を行う。Fig.4に各状態の赤外線LEDの発光パターンを示す。図より損傷状態により発光パターンが変化していることが確認できる。よって本模擬実験により、簡便にマイコンセンサー端末とロボットにより亀裂検知が可能となることが確認できる。

 

6.       まとめ

本研究では、赤外線送信を用いたマイコンセンサー端末とロワイヤレスカメラ搭載ロボットによるモニタリングシステムを提案し、基礎的な研究を行った。

提案システムでは、詳細な構造ヘルスモニタリングを行うことはできないが、震災後、迅速に構造物の損壊の危険性を判断できる可能性があると考えられる。また、より詳細な構造ヘルスモニタリングを行うための、事前情報としての有用なシステムと成り得ると考えられる。今後は、実構造物への応用を見据えた、実験を行っていく予定である。

 

謝辞

 本研究は、科学研究費補助金(若手研究(B))課題番号21760442)の補助を受けて実施したものです。ここに謝意を表します。

 

参考文献

1.     勝俣 盛、枝元 勝哉、原 幸久、中村 優:橋梁点検ロボットの開発 〜維持管理業務の合理化に向けて〜、川田技報、Vol.22pp.90-912003.1

2.   鷹巣征行:多孔吸盤による壁面作業ロボットの開発、日本建築学会構造系論文集、No.498pp.21-28 1997.8

3.   長谷川沙織、三田彰:建築空間の生命化のためのロボットによる姿勢と動きの把握、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)B-2pp.23-242007.8

4.   鍛冶雄馬、三田彰:構造ヘルスモニタリングのためのロボット搭載型センサの動特性に関する研究、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)B-2pp.241-2422008.9

5.     森田高市、野口和也:RFIDタグ及び導電性塗膜を用いたひび割れ検知センサーの研究、日本建築学会技術報告集Vol.24pp.73-76 2006.12

6.     圓幸史朗他3名:スマートセンサとムセンネットワークを用いた構造ヘルスモニタリングシステムの開発、日本地震工学会論文集、Vol.7No.6pp.17-302007

7.     倉田成人、森川博之:ユビキタス構造モニタリングシステムの性能評価、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)A-2pp.485-4862007.

8.     白石理人:ワイヤレスセンサネットワークによる分散型のモード特性同定、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)B-2pp.245-2462008.9

 

sensor unit robot

Fig.1 マイコンセンサー端末      Fig.2 ワイヤレスカメラ搭載ロボット

 

Fig.3 ロボット制御用PC画面

Nodamage

(a)     無損傷時

Damage1

(b)     1chが損傷時

Damage2

(c)     2chが損傷時

Damage1_2

(d)     1ch2chともに損傷時

Fig.4 赤外線送信