圧電素子ケーブルを用いたスマート構造の開発
足利工業大学 仁田佳宏
近年、センサやアクチュエータの機能を組み込むことで、構造物自体が頭脳を持ち、周囲を取り巻く環境の変化に柔軟に対応するスマート構造が注目されている1-4)。スマート構造の機能には、組み込まれたセンサにより損傷の発生を自己検知する損傷検知機能と損傷を自己修復する修復機能がある。このスマート構造の機能を活用することで、経年劣化や地震による損傷に、構造物が自律的に対応することが可能となる。また材料技術の発展に伴い、センサ機能やアクチュエータ機能を持つ様々な新素材が数多く開発されている。このような新素材として、圧電素子や形状記憶合金がある。圧電素子は、電圧を加えることにより力やひずみを発生し、応力やひずみが加わることにより電圧を発生するため、センサ機能とアクチュエータ機能をあわせ持つ。形状記憶合金は、加熱もしくは電流により力を発生し、比較的効率の良いアクチュエータ機能を示す。
本研究では、スマート構造の確立を目的に、Fig.1に示すような圧電素子ケーブルによる自己損傷検知と形状記憶合金による自己補強の機能を組み込んだスマート構造に関する基礎的研究を行う。本報告では、基礎的なスマート構造の概念について報告する。
圧電素子ケーブルによる損傷検知機能を確認する目的で、モルタル試験体を対象とする、衝撃加力実験と3点曲げ破壊実験を行う。モルタル試験体は、40mm × 30mm × 395mm、圧電ケーブルの長さは470
mmである。衝撃加力実験では試験体中央をハンマで打撃加振し、3点曲げ破壊実験では試験体中央をき裂が発生するまで加力し、圧電素子ケーブルの出力電圧を計測する。計測した出力電圧を、衝撃加力実験についてはFig.2に、3点曲げ破壊実験についてはFig.3にそれぞれ示す。
Fig.2、3より、衝撃応答とき裂の発生では、出力電圧波形が大きく異なり、出力電圧の平均値の変動もしくは出力電圧波形のゼロクロッシング間隔により、衝撃応答とき裂の発生を判別できると考えられる。本研究では、マイコンにより、衝撃応答とき裂の発生を判別することから、アルゴリズムが簡易である出力電圧波形のゼロクロッシング間隔により判定することとする。
スマート梁として、Fig.4に示すような2本の16mm × 16mm × 160mmのアルミ角材を、上端は樹脂により、下端は形状記憶合金アクチュエータ(Bio-metal fiber, BMF)5)の圧縮力により、接合した梁材を用いて、スマート構造の実験を行う。モルタルのき裂を模擬したスマート梁の損傷は、BMFへの電流を0 Aとすることで実現している。本実験では、スマート構造として、マイコン内で、圧電素子ケーブルの出力電圧値からき裂の発生を検知し、補強機構とする。衝撃応答とき裂の発生の判別は、マイコン内でゼロクロッシング間隔の相違により判定する。また、き裂のであるBMFを平常時とは別回路の電源から駆動すること発生の確認のため、梁材の中央をレーザ変位計により計測する。スマート梁およびマイコンから構成されるスマート構造の実験装置の概要をFig.5にしめす。
梁材の中央部の変形、圧電素子ケーブルの出力電圧およびマイコンからの指令入力を、衝撃応答時についてはFig.6 - 8に、き裂の発生時についてはFig.9 – 11に示す。
Fig.7 10より、圧電素子ケーブルの出力電圧が、衝撃応答とき裂の発生で異なることが、Fig.8, 11より、マイコンが衝撃応答とき裂の発生を判定して、BMFを適切に駆動させていることが確認できる。
自己損傷検知機能および自己補強機構を組み込んだスマート構造の開発を目的として、圧電素子ケーブルと形状記憶合金アクチュエータ(BMF)を組み込んだスマート梁
を提案した。はじめに、本研究では、圧電素子ケーブルにより、き裂の発生を検知可能であることと、き裂の発生と衝撃応答を出力電圧より判別可能であることを確認した。
次に、提案したスマート梁は、圧電素子ケーブルの出力電圧から、マイコンがき裂の発生を検知し、形状記憶合金アクチュエータ(BMF)を駆動することで、損傷を補強できることを示した。今後は、スマート梁の力学特性について検討を行っていく予定である。
1.
岸輝雄,武田展雄,桜井建夫他7名:NEDO「知的材料・構造システムの研究開発」プロジェクト成果概要報告,日本複合材料学会誌,Vol.30,No.2,pp.45-54,2004
2.
日本機械学会編:新技術融合シリーズ 知的複合材料と知的適応構造物,養賢堂,1996
3.
座古勝,高野直樹,藤岡英典:CFRP貼付補強コンクリートのインテリジェント化のためのセンサ・アクチュエータに関する研究,材料,Vol.47,No.11,pp.1178-1182,1998
4.
G.Song, Y.L.Mo, K.Otero and H.Gu:Health
Monitoring and Rehabilitation of a Concrete Structure Using Intelligent
Materials, Smart Materials and Structures, Vol.15, pp.309-314, 2006
5.
トキ・コーポレーション株式会社 バイオメタル事業部:バイオメタル,2002.2
Fig.1スマート構造の模式図
Fig.2 衝撃加力時の時刻歴応答 Fig.3 き裂発生時の時刻歴応答
Fig.4 アルミ角材による試験体 Fig.5 スマート構造
Fig.6 梁中央部の変形 Fig.7 圧電素子ケーブルの出力電圧
Fig.8 BMFのon/off Fig.9 梁中央部の変形
Fig.10 圧電素子ケーブルの出力電圧 Fig.11 BMFのon/off