ソーラークッカーとは、太陽熱温水器と同様に熱源には太陽光のみを使用し、調理を行う道具につけられた総称です。
ソーラークッカーに関する現状を簡単に紹介しましょう。
地球上には薪を燃料として調理をしている人々が全人口の1/3ほどもいて、そのほとんどが慢性的な薪不足に悩んでいます。
また室内で調理をすることによる煤や煙の害で毎年何百万人もの人々が呼吸器系の疾患で亡くなっているのです。
アフリカでも薪不足は深刻ですが、配給による食料を比較的豊富に持つ難民はそのいくらかを定住者との間で薪に物々交換することもあるそうです。
このような事情によりケニアの森林率の減少は著しく、各国のNGOが各種ソーラークッカーを持ち込んではその普及に努めています。
中でも20年ほど前から導入されてきたSolarCookitと呼ばれるダンボール製の簡便なパネル型ソーラークッカーが雇用創出も含めうまく機能しています。
中国では集光型の単一モデルがすでに180万台も生産されており、近隣諸国やアフリカにまで輸出されています。
商業ベースでも採算が見合うという実例でしょう。
インドでは熱箱型のソーラークッカーが70万台も使用されているます。
また、1日に3万食もの調理が可能なものも含め、いくつもの巨大な太陽熱調理システムが存在します。
アメリカ、ドイツにはこういった世界中のソーラークッカー関連の営利、非営利団体の司令塔とも言える統制力を持った強力なNGOがあります。
SCI、EG Solar、ULOGなどのNGOのホームページをチェックしてみてください。
ソーラークッカーの歴史は思いのほか古く、文献として残っているものでも既に240年前にはスイスでの太陽熱調理の実例が紹介されています。
日本でも50年前にプラネタリウムを製作していた五藤光学が性能の良いソーラークッカーを開発しアリゾナでの第1回国際太陽エネルギー学会で実演を行いました。
そして日本では近年、子供の理科離れを危惧してか、小学校理科の教科書や副読本にもソーラークッカーが紹介されるようになっています。
ソーラークッカーは中学でも習う熱の3つの移動形態をうまく利用、コントロールすることにより調理を行っています。
つまり、
・熱伝導
・放射(ふく射)
・対流
の3つです。下の図を見てください。
太陽の光は補助反射板(ブースターミラー)や集光板により増強され、鍋に当たります。鍋に当たった光は吸収されて熱に代わるのですから
鍋の色は黒に近い色が良いということになります。また、温まった鍋の内側から食材に向かっても赤外線の放射がありますので、欲を言えば
鍋の内側も黒に近い方が良いことになります。ここまでは「放射」に関係している部分です。
次に、鍋の外側から内側に熱が届くのも、鍋の上部やフタに当たった光が熱に変わり、鍋を伝わって食材に熱が届くのも、
「熱伝導」が関係しています。ということは鍋には銅やアルミを使う方が良いのでしょうか。確かに銅は熱伝導率が高いのですが、
ソーラークッカーと使う場合、特に鍋の材質が体感的な加熱力に大きく関係することはないように感じます。ただ、ある程度の
加熱力がある集光型ソーラークッカーとは黒い鋳物の鉄鍋(ダッチオーブン、あるいは南部鉄器のような)が相性が良いようです。
これは前述の鍋内側での赤外線放射が大きく関係していると考えられます。
また意外ですが、ふかし芋のような調理をする場合でも芋のみを鍋に入れるより、水を少し入れた方が調理が早く進みます。これは空気が熱を
伝えにくいため、水を入れると一見食材の熱容量が増えるようですが結果的には早く熱が伝わるということです。
最後は「対流」ですが、大きな反射板を持たないタイプのソーラークッカーでは必ずガラスやビニールなどで鍋を覆う必要があります。
これはせっかく温まった鍋のまわりの空気を逃がさないためです。Lofの実験によると、覆いのない集光型ソーラークッカーで対流
により逃げる熱は調理に必要な熱の約4割と言われています。
ソーラークッカーは調理温度である85度以上を上記のどのメカニズムを主に利用しているかで種類が分かれます。
ソーラークッカーは大きく分けて集光型(Concentrator Type)、熱箱型(Box Type)、パネル型(Panel Type)に分かれます。
また、熱箱型と集光型の中間に位置するソーラークッカーもたくさん存在し、歴史的にも非常に古いタイプです。
これを発案者の名前を使わせていただき、「テルケス型」(Telkes Type)と呼ぶことにします。したがってここでは、ソーラークッカーを
「集光型」、「熱箱型」、「パネル型」、「テルケス型」の4つに分類することにします。それぞれの特徴と例をひとつずつ紹介しましょう。
3.1 集光型
集光型ソーラークッカーはなるべくたくさんの面積で受けた光を無駄なく鍋に当てようとするソーラークッカーです。光を集光するには
レンズを使って屈折させても、鏡を使って反射させても良いのですが、大抵のソーラークッカーでは鏡(反射板)が使用されます。その理由は
鍋に食材を入れると重力の影響で食材は鍋の底付近に集まりますが、これを効果的に温めるには下からの光が使いやすいからです。
反射材には鏡、アルミ板、ステンレス板、アルミ箔、蒸着フィルムなどがよく用いられます。反射板の形状には放物面(パラボラ)を採用することが多い
ですが、放物面を平面の集合で近似しても、あるいは球面を利用しても集光は可能です。集光型は「放射熱」に重点を置いたソーラークッカーと
いえます。
上の図は沼田清さんによるアクリル鏡を用いた典型的な集光型ソーラークッカーです。
3.2 熱箱型
熱箱型の歴史は古く、スイス人のソシュールがすでに240年前に重ねたガラス箱で食材の調理が可能なことを発見しています。ガラス箱により
熱が対流により逃げるのを防いでいます。またガラス箱を重ねることにより熱伝導率の低い空気を断熱材として用いたわけです。
現在主流となっている熱箱の作り方は、光の入射面にのみガラス(2重にすることが多い)を用い、その他の箱本体は木材や
金属、樹脂で2重に作り、その間に断熱材を入れて伝導により熱が逃げるのを防ぎます。内部は黒く塗ることが多いようです。
インドやアフリカなど太陽高度が高く、日差しも強い地域ではこれで十分ですが、ほとんどの熱箱にはブースターミラーと呼ばれる
補助反射板が1枚、あるいは複数枚使用されます。
上の図は本学で作成した典型的な熱箱型ソーラークッカーです。
3.3 パネル型
パネル型ソーラークッカーは平板、あるいは平板をたわませたものを組み合わせて作られています。簡単な構造に見合うように
安価な材料が用いられることが多いのですが、反射率の高い金属板を使用したものもあります。手軽に作れ、単価も安いので教材用、
あるいは難民救済用に適しています。パネル型ソーラークッカーの代名詞ともいえるSCI(Solar Cookers International)製の
SolarCookitはアフリカ、南米で普及が進んでいますが、特にケニアではケニア版SolarCookitが開発され、女性を中心にした
普及ネットワークが組織されて雇用創出、調理用熱源の確保、森林保護など、一石三鳥の活躍を見せています。
SolarCookit1台で年間約2トンの薪を代替できるという試算があり、2,3日分の薪の代金でSolarCookitを購入すれば1年で家畜が1頭
増やせるほどの節約となります。段ボールにアルミホイルを貼っただけの素材ですが、寿命は約2年とされており、貧しい層にも
十分割安感が理解できる実用品と言えます。
上の図はケニアSCIによるパネル型ソーラークッカーの代表格、SolarCookitです。
3.4 テルケス型
世界的には熱箱型に分類されるようです。確かに下の図を見ていただければ箱型からテルケス型への推移がお分かり
いただけるでしょう。
しかし大きな集光板、そして入射光の角度に対する感度など、明らかに特徴としては集光型
と熱箱型の中間に位置し、この形から大きくずれた亜種への派生がほとんどないため、考案者であるテルケス女史の名前を拝借して
テルケス型と名づけました。アメリカのSunOven社はこの形で大小のソーラークッカーを製作しています。
上の図はサイエンスキャンプで高校生と作ったダンボール製の典型的なテルケス型ソーラークッカーです。
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