燃焼炎法ダイヤモンド合成法の実用化に向けた検討



1.燃焼火炎法によるダイヤモンド成膜における成膜領域の大面積化の検討
  燃焼火炎法は、20年近く前に開発されたダイヤモンド形成法ですが、基材を高温に加熱するため熱応力が発生する、一度に処理できる領域が狭いための均質膜の形成が困難などの問題があり、まだ実用化には至っておりません。
  本研究は、基材トラバースにより大面積処理を可能にし、耐熱性に優れた被処理材を対象とした迅速ダイヤモンド成膜法として実用化することを目標に行っております。ただしCVDの場合には、プラズマ状態の異なる中心部と周辺部では全く異なる物質が形成される可能性がありますので、基材トラバースのよる大面積化は溶射に比べ困難であると考えられます。特に燃焼火炎法に用いられるアセチレン炎は、ダイヤモンドを形成する還元炎の外側にグラファイト化を促進する酸化炎が取り巻いておりますので、基材固定状態でダイヤモンドが形成される条件でも、基材をトラバースする際には形成されたダイヤモンドを酸化炎が形成したダイヤモンドをグラファイトに変えてしまう恐れがあります。そこで我々は、まず基材固定状態でダイヤモンドのみが形成される成膜条件を探し出し、その条件にて基材トラバースによる大面積処理を行いました。
  実験装置は、図1に示す市販のアセチレンバーナーを用い、基板はMo、成膜条件は文献値を参考にしました。その結果、基板を固定した状態でグラファイトの混在しないダイヤモンド皮膜を形成することができたうえ、その条件でトラバースを行ったところグラファイト化させることなくダイヤモンドの大面積成膜に成功し、実用化の可能性を示す結果が得られました。基板固定状態で成膜した試料および基板トラバース状態で成膜した試料の概観写真ならびに光学顕微鏡による表面観察結果を図2に示します。
 
           
               図2 熱プラズマCVD装置         図3 形成された皮膜の表面観察結果


2.燃焼火炎法を用いたダイヤモンド被覆によるMo溶射皮膜の耐摩耗性の向上
  Mo溶射皮膜は、鉄鋼材料との親和力が強く金属材料の中では耐摩耗性が高いことから、自動車部品や射出成型用金型の耐摩耗被覆材として用いられています。本研究では、このMo溶射皮膜の更なる耐摩耗性の向上を目的として、燃焼火炎法によりMo溶射皮膜上にダイヤモンドを被覆し、その皮膜の耐摩耗試験を行いました。その結果、図4に示すようにMo溶射皮膜上にも容易にダイヤモンドを合成することができ、耐摩耗性も向上することが明らかとなりました(図5)。

           図4 溶射皮膜上のダイヤモンド               図5 摩耗試験結果

<本研究に関連する文献>

・ 安藤康高,桜井純一,福田和弘,戸部省吾:「燃焼火炎法による大気雰囲気下でのダイヤモンド被膜合成およびその大面積化の検討」,プラズマ応用と複合機能材料, 9 (2000) pp.73-76.

・櫻井純一,福田和弘,安藤康高,戸部省吾:「燃焼火炎法を用いたダイヤモンド成膜の基材トラバースによる大面積下の検討」,日本溶射協会第72回全国講演大会講演論文集 (2000) pp.5-6.

・福田和弘,櫻井純一,安藤康高,戸部省吾:「燃焼火炎法を用いたダイヤモンド被覆によるMo溶射被膜の耐摩耗性の改善」,日本溶射協会第72回全国講演大会講演論文集 (2000) pp.7-8.



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