(2016年)
地域資源および地域活性化に関する現地視察研修


■目的(2016年)


地域資源とは、都市の成立に係わるとともにその成長を牽引してきた
地域固有の資源・資産であり、中小企業庁では、『農林水産物』、
『鉱工業品およびその生産に係る技術』、さらに、『歴史・文化・自然などの観光資源』
に分類している。これまで、中心市街地の活性化に寄与すべく実施されてきた
インフラ整備を主体とした従来の手法は、財政難に直面する地方都市にとって
その採用は難しい選択肢であり、それに比べそれほど大きな資金投入に
依存しない地域資源の活用によるまちづくりへの取り組みは、
現今の地方都市にとって有効な手法として各地で定着してきている。

   
地域資源活用研究会は、“地域固有の資源・資産を活かした魅力ある
地域づくり・空間づくり”に向けた活用デザインへのトライを目的にしており、
@月2回の定例会の開催(勉強会)、A現地視察会の開催(研修会)を活動の
基軸としている。@では、各都市における地域資源および地域資源を活用した
取り組み事例に関する勉強会を開催するとともに、Aでは、後援会の支援により、
これまで『富岡製糸場と碓氷峠鉄道関連施設群』、『江ノ電と鎌倉界隈の観光振興』
について視察研修を実施してきた。これらの取り組みを通して、参加学生は地域資源を
活用したまちづくり手法、個々の地域資源がもたらすまちづくりへの
効果等について体感することができたと考えている。


今回、本年度の現地視察研修として、日光市足尾地域周辺の近代土木遺産および
自然環境の宝庫・景勝地である戦場ヶ原を訪ねることとした。足尾地域は、
わが国の近代化に大きな役割を果たした足尾銅山に関連した遺構が多数保存され、
世界遺産への登録を目指す取り組みが行われている。今回は、足尾銅山から産出された
銅の輸送強化を担った旧足尾鉄道(わたらせ渓谷鐵道)に関連する橋梁・駅舎、
銅山と自然環境との相剋の歴史を物語る砂防堰堤等の近代土木遺産の歴史・
文化的意味を学ぶ。また、近代初頭以降に国際避暑地として形成されてきた
中禅寺湖周辺、およびわが国を代表する自然環境豊かな景勝地でもある
戦場ヶ原の観光地としての賑わいを体感する。


今回の研修会では、これらの歴史・文化遺産の価値評価、およびその施設(地域資源)
による地域の活性化・賑わいの現状とその効果等について視察するものである。



■視察施設

(1)旧足尾鉄道(わたらせ渓谷鐵道)の近代土木遺産
@第二渡良瀬川橋梁 本年度土木学会選奨土木遺産に推挙
A第一松木川橋梁         同  上     

B足尾駅本屋           同  上     

(2)足尾銅山に関連する近代土木遺産
@古河橋  国指定重要文化財(平成25年)
A足尾砂防ダム、および砂防堰堤群

(3)近隣の近代土木遺産
@丸沼ダム  国指定重要文化財(平成15年)、
平成13年度土木学会選奨土木遺産
*東京電力パワーグリッド鰹タ田制御所 後藤克寛氏に案内・解説をお願いした。

(4)中禅寺湖
戦場ヶ原周辺
@イタリア大使館別荘記念公園
Aイギリス大使館別荘記念公園(7/1開園)
B戦場ヶ原界隈(湯ノ湖、湯滝、小田代ヶ原、など

(5)タイムスケジュール
845 足利工業大学ピロティ(集合/挨拶)
8:50 (出発)⇒ 移動時間:90

10
20 第二渡良瀬川橋梁(見学:10分)⇒ 移動時間:5
1035 足尾駅本屋(見学:15分)⇒ 移動時間:5
10
55 第一松木川橋梁(見学:10分)⇒ 移動時間:5
1110 古河橋(見学:10分)⇒ 移動時間:5

11
25 足尾ダム(見学:20分)⇒ 移動時間:45
12
30 (戦場ヶ原/食事&休憩:60分)⇒ 移動時間:30
14
00 丸沼ダム(見学:40分)⇒ 移動時間:30
15
10 中禅寺湖・戦場ヶ原(見学散策:80分)
1630 (出発)⇒ 移動時間:90
18
00 (到着/解散)


■報告

1.日  時  平成28618日(土)8451845
2.場  所  栃木県日光市(足尾地区・中禅寺湖地区)、群馬県片品村

3.報  告
地域資源活用研究会の会員9名が参加して、標記視察研修会を開催した。
今回訪ねたのは、栃木県日光市と群馬県桐生市を結ぶ「わたらせ渓谷鐵道」の鉄道橋梁・
駅舎および足尾地区内の砂防堰堤等の近代土木遺産、群馬県片品村に位置する東京電力所管の
『丸沼ダム』、日光中禅寺湖周辺である。

「わたらせ渓谷鐵道」の鉄道橋梁である『第二渡良瀬川橋梁』・『第一松木川橋梁』、
および『足尾駅本屋』は、国登録有形文化財であり、かつ本年度の土木学会選奨土木遺産に
推挙を予定している歴史資源である。また、『古河橋』は旧足尾銅山から産出された
銅輸送の近代化に大きく関与した橋梁であり、平成25年に国の重要文化財に指定されている。
『足尾砂防ダム』は、銅山によって荒廃した周辺地山の崩壊による土砂災害への対応として
建設されたわが国最大の砂防施設である。これらの足尾地区の土木遺産は、
現地視察を行う中で福島が解説を行なった。

『丸沼ダム』は、昭和6年に竣工した発電用ダムで、全国に8基建造され6基のみ現存する
バットレスダムという構造形式の希少性の高いダムである。内務省土木試験所長を務めた
物部長穂が設計したことでも著名であり、平成13年に土木学会選奨土木遺産、
平成15年には国の重要文化財にも指定されている。今回、東京電力パワーグリッド鰹タ田制御所
の後藤克寛氏・猿田昭博氏のご案内により、ダム内部を巡りながらその構造上の特徴、
および歴史的建造物としての保護上の問題点等について解説して頂いた。
説明して頂く時間は当初40分の予定であったが、学生たちの熱心な視察姿勢に、
1時間30分にわたり詳しく説明して頂いた。

丸沼ダム視察の後は、中禅寺湖畔の散策を踏まえ、地域資源による“観光地の賑わい”
について体感・思考することを予定していたが、前述のとおり丸沼ダム視察の
大幅な時間超過により、全員で『中禅寺(立木観音)』参拝のみに止まった。

今回の視察研修は、本年度の土木学会選奨土木遺産に推挙を予定している栃木県
日光市足尾地区の土木遺産はじめ近傍の近代土木構造物が中心であった。参加した学生が
全員建築・土木分野の学生であり、個々の構造物の“機能・役割”とともに、
“歴史的価値・意義”さらにその“構造美・美観”等について、じっくり思いを巡らす
機会になったものと思われる。地域資源の大きな素材である“土木遺産”に身近に触れ、
特に、丸沼ダムではその機能維持と後世への継承に携わる管理者の努力に接する
研修でもあった。今回の経験が、建築・土木分野を学ぶ学生として、地域課題と
その解決に向けた取組み、工学が担う役割等について考える能力の涵養と、
そのための自己啓発に結び付く契機になることを期待したい。


   
第一松木川橋梁にて
足尾砂防ダムにて

古河橋にて

丸沼ダム 猿田氏の解説に耳を傾ける
 

丸沼ダム 後藤氏の解説に耳を傾ける

丸沼ダムにて